
20世紀初頭、AI(人工知能)はSF(サイエンス・フィクション)でしかなかった。その後、コンピューターの発明によって学問の一分野となったが、長い間、実用性よりも、「知能とは」「人格とは」を問う哲学の題材にとどまっていた。 しかし近年、生成AI「ChatGTP」をはじめとしたAI技術が急速な進化を遂げ、ヒトを凌駕するパフォーマンスを発揮。日々の生活にも影響を及ぼすに至った。日常に根ざす美容業も当然、その影響から免れることはない。今後、AIをいち早く活用し、味方につけるかどうかで、美容室経営の成否は大きく左右されることだろう。 そこで本記事では「AIを美容室経営の味方につける」と題し、美容室の経営改善に使えるAIや、AIと美容業の未来について考えていく。
AIは少しずつ日常生活に浸透し、人の思考や行動にも大きな影響を与えている。そんなAI時代、他店との差異化を図るために重要性が増しているのが、SNSでも集客サイトでもなく、実は自社サイトなのである。
解説/碇 由香[数字から考えるウェブ戦略コンサルタント]
最近、「AIに触れる機会が増えてきた」と感じていませんか?
ChatGPTなどの生成AIを積極的に使っていなくても、「ネット上で問い合わせたらAIのチャットボットへ誘導された」「ネットで調べ物をしていたらAIが回答した」などといった経験をされているのではないでしょうか。このような経験をしているのは、美容室へ来店するお客さまも同じ。美容室を探す際などに、AIが出力した結果を(意識的に、または無意識に)参照しています。
実際、私たちの情報収集の方法は大きく変化しています。Googleで何かを検索すると、検索結果の最上部には、AIによって要約された回答が表示されるケースが増えました。
こうしたAIは、ユーザーの検索意図に応じて情報を提供します。美容室でいうと、「予約したい」「お店までのアクセスを知りたい」といった検索には、従来通りのキーワード広告や自然検索結果が出ますが、「美容室を比較したい」「上手な美容室を知りたい」といった検索には、AIが積極的に回答する傾向にあります(図1)。

現状を一言でいえば、「AIの波が来ている!」。AIに選ばれることが、お客さまに選ばれることにつながります。そして、AIに選ばれるために、SNSやウェブサイトの活用を見直す視点が必要になってきます。
AIの回答は、AIが「信頼性が高い」と判断した複数の情報源から要点を抽出しています。情報源となったページは、回答にリンクが貼られ、検索結果でも優先的に表示されます。
では、AIはどのような情報源を「信頼性が高い」と判断しているのでしょうか? 少し専門的な話になりますが、Googleが公開している検索評価ガイドラインで、「E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)」という基準を明示しています。特に「経験」は、後から評価ガイドラインに追加されたものであり、重視していることが分かります。具体的には、企業・店舗の公式サイトや、専門性のあるブログ、体験記事などが引用されることが多い傾向にあります。
一方、SNSの情報に関しても、AIは注視していると考えられていますが、それはあくまで、一次情報の補完としての位置づけです。リアルタイム性やトレンド性は参考にしつつも、SNS単独ではなく、信頼性の高い他の情報源と照らし合わせていることがうかがえます(図2)。SNS発信だけでは、AIからの信頼は得られないのです。

また、キーワード広告も影響を受けています。キーワードで検索した結果の上部にAIの要約が表示されるようになった結果、ユーザーはその情報で満足してしまい、サイト自体への流入が減りました。キーワード広告の流入効果が15~20%ほど減少したという報告もあります。AI導入による検索結果の変化が、行動にも影響を与えていることを示しています。
だからこそ、時代の流れを受け止めながら、「何を・どう発信するか」を改めて考えることが大切です。AIが求める情報や、ユーザーが本当に知りたいことを意識し、自社の発信内容や方法を見直すタイミングが来ています。
AIの存在が、検索をはじめウェブ上のさまざまな場面で前提となりつつある今、あなたの美容室がどのように情報を整備し、発信して「AIに信頼される情報源」へ育てていくかは、非常に重要な経営テーマだと言えます。この際に着目すべきは、前述の通り「経験・専門性・権威性・信頼性」です。美容室であれば、前提として自社サイトを運営し、
などの内容を盛り込み、継続的に発信することが基本となります。
この積み重ねこそが、これからの時代に選ばれるブランドづくりの土台となり、顧客との関係を深め、AIにも価値ある存在として認識されていく鍵となります。
新規のお客さまを、継続的に通ってくれる優良顧客へと育てていくためには、意図を持ったウェブ上の動線設計が欠かせません。
ウェブ上でのこれまでの主な集客動線には、集客サイトとSNS、検索サイト、それに自社での広告活動(検索サイトでのリスティング広告など)がありました。もちろん、これらの重要性は変わりませんが、それに加えて、「AIに選ばれる」という動線が生まれたわけです。そして、AIに選ばれるためには、自社サイトでの、専門性と信頼度の高いコンテンツの発信が重要であることは、これまでに述べた通りです。言い換えると、AI時代の集客においては、自社サイトの価値が高まっており、自社サイトを核に集客~収益化(リピーターづくり)を進めていくことがベターとなります(図3)。

読者の皆さまはご周知のことと思いますが、集客サイトは、一定の認知を得て新規集客を獲得するのには向いているものの、再来を促すには、不向きな面があります。なぜなら、例えば顧客に集客サイトのネット予約画面を案内し、お客さまがそのページを表示しても、1クリック(タップ)するだけで、同じサイトの中にある他店の情報へアクセスできるため、目移りしやすく、他店へ流出する恐れがあるからです。その意味でネット予約システムは、集客サイトに任せるのではなく、自社サイトに構築することをおすすめします。
また、広告やSNS投稿から流入したユーザーが次に訪れる場所として、ランディングページと自社サイトをしっかりと整え、来店したくなる情報を盛り込みます。例えば、自社サイトでは「ヘアスタイル」「お客さまの声」「よくある質問」「スタッフ紹介」「店舗のコンセプト」などを発信することで、価格だけでは伝わらない価値を届けることができます。こうした情報は、新規客にお店の雰囲気や考え方を理解してもらい、安心感や信頼感を高める要素にもなります。
そして、実際に店舗に訪れたお客さまと、お店に興味を持ったけれど、予約には至らなかった顧客予備軍をフォローし、来店・再来を促す仕組みも必要です。その仕組みの前提となるのは、顧客および顧客予備軍のリストを持つこと。その上で、メルマガやLINEなどを用い、お店とのつながりが感じられる情報を発信しつつ、継続的に来店を促します。
このような、「認知→興味→理解→信頼→リピート」へとつながる設計を意識した動線づくりこそが、新規顧客を優良顧客へと成長させる戦略の土台になります。 「AIに選ばれる」という観点からは、集客サイトや広告の予算を削減し、その分を自社サイトの運用に回すことが一案となります。自社サイトでAIの信頼だけでなく、分析を通じノウハウを蓄積していくことで、長期的にはコスト削減や再現性の高い集客につながります。
さらに、自社サイトは情報発信の自由度が高いことも、大きな特徴です。自社の魅力を多角的に伝えることで、ブランディング、人材採用、理念発信…などにも活用でき、戦略的資産として育てていくことも可能となります。

※本記事は、月刊『美容の経営プラン』2025年8月号から転載した記事です。