
美容室経営者・オーナーになる方法は、 独立創業だけではなく、「事業承継」という道がある。事業拡大も、自力出店だけではなく、「M&A(合併・買収)」が選択肢の一つとなる。どちらも大きな金銭が動くことからトラブルも生じがちだが、きちんと手続きを進めれば、決して難しいものではない。経営基盤や経営資源をそのまま引き継げるというメリットと、前オーナーの思いを受け継ぎ、さらに発展させるという使命は、事業承継やM&Aならではの特徴であり、やりがいも大きい。そこで「美容室経営を受け継ぐ」と題し、事業承継やM&Aを成功に導くためのポイントを特集する。
解説:齋藤和寿[M&A・事業承継の成功法を教える専門家]
事業承継やM&Aを持ち掛けられたら、受けるか、断るかを決断することになります。では、何をもって検討し、決断するのか。その基準を紹介します。
ここからは、事業を譲り受ける側の視点で、事業承継・M&Aのプロセスを詳しく見ていきます。前述の通り、「事前準備プロセス」は企業を譲渡する側が行うことですので、本記事では割愛します。なお、事業の譲渡を検討している方は、企業価値の評価や各種資料作成、リスクの洗い出しなどを行いますが、これらを個人で行うのは困難でしょう。取引先の金融機関やM&Aのコンサルティング会社などに相談してみてください。
「事業を引き継いでもらえないだろうか?」
そんな相談が持ち込まれたら、まずは譲り受けるか否かを検討します。ですが、ほとんどの方は、何をもって検討し、判断すべきか分からないと思います。そこで、事業承継(親族・社内)・M&Aの可否を判断するための基準を下の表1にまとめました。ただし、あくまで基準であり、一歩を踏み出すかどうかに正解はありません。最後は意思次第です。
【親族承継の場合】
| カテゴリー | チェックポイント例 |
|---|---|
| 気持ち・家族の期待 | 継ぎたい気持ちが自分の意思か? 親きょうだいなどの期待に引っ張られていないか? |
| 関係性 | 現オーナー(親族)との関係は良好か? 仕事と家族の距離の取り方に無理がないか? |
| 能力 | 美容業界または経営の知識・経験があるか? 知識・経験がないならば、足りない部分をどう補うか(教育・支援)? |
| 親族間トラブル | 兄弟姉妹との相続・贈与面での合意形成ができそうか? |
| 財産・税金の知識 | 自社株や事業用資産の承継にかかる税金の見通しは立っているか? |
| 今後のライフスタイル | 承継後の働き方が、自分・家族の希望する生活とマッチしているか? |
【社内承継(役員・店長・従業員など)の場合】
| カテゴリー | チェックポイント例 |
|---|---|
| 気持ち | この店を守り育てたいという気持ちがあるか? オーナーとの信頼関係・承継の意思確認はできているか? |
| 能力 | 日々の店舗運営、スタッフマネジメント、数値管理などを経験してきたか? |
| ビジョン | 現在のやり方を引き継ぐのか、自分らしい店づくりをしたいのか? そのために必要な準備は見えているか? |
| 資金調達 | 自己資金はあるか? 分割払い・のれん代の交渉余地はあるか? |
| 人間関係 | 社内のスタッフから信頼され、今後リーダーとしてやっていけるか? |
| 家族の理解 | 時間・お金・ストレスを背負う中で、家族の支援・理解があるか? |
【第三者承継(M&A)の場合】
| カテゴリー | チェックポイント例 |
|---|---|
| 気持ち・動機 | この美容室を引き受けたいか?(利益・地域貢献・ライフスタイル) プレッシャーに耐える覚悟があるか? |
| 能力 | 経営経験またはマネジメント経験はあるか? |
| ビジョン | 将来どのような美容室にしたいかイメージがあるか? 現オーナーのスタイルとの違いに対応できるか? |
| 資金面 | 初期費用(買収代金+運転資金)を準備できるか? 金融機関などからの融資見通しはあるか? |
| 立地・市場 | その地域での顧客ニーズや競合状況を把握しているか? |
| 自分の将来 | 自分の人生プランの中で、この承継がどう位置づけられるか? |
さて、一歩を踏み出す覚悟が定まったら、本格的に検討をスタートさせていきます。
01|秘密保持契約を交わす
事業承継やM&Aで知り得た情報や交渉の過程などを外に漏らさないという「秘密保持契約」の締結から始まります。たまに、相手が知り合いだからという理由でこの手順を飛ばす方もいますが、往々にして外部へ情報を漏らして大問題となり、信頼を失い、話がご破算になっています。
02|企業概要書などを受け取る
前回で述べた通り、譲渡側は事前準備プロセスで財務・税務・法務などに関連する資料(企業概要書など)を作成しているはずですので、これを受け取り、本格的に検討していきます。表2に、主な資料を挙げました。
| 店舗の概要が分かる資料 | サービス・メニューが分かる資料 |
| 顧客属性や集客方法が分かる資料 | 定款(法人の場合) |
| 会社商業登記簿謄本(法人の場合) | 株主名簿(法人の場合) |
| 決算書・勘定科目明細 3期分 | 法人税・住民税・事業税・消費税申告書 3期分 |
| 減価償却資産台帳 | 月次試算表 |
| 資金繰り表 | 土地・建物の登記簿謄本 |
| 公図、測量図など | 固定資産税課税明細書(最新分) |
| 事業計画書 今後5期分 | 採算管理資料 3期分 |
| 売上内訳 3期分 | 仕入内訳 3期分 |
| 組織図 | 従業員名簿 |
| 社内規程 | 給与台帳 |
| 土地・建物の賃貸借契約書 | 銀行借入金一覧(返済予定表、担保一覧) |
| 保険積立金の解約返戻金資料 | 取引先との取引基本契約書 |
| 生産・販売委託契約書 | リース契約一覧 |
| 許認可関係資料(開設届など) |
03|質問する
資料を入手し、読み込んだら、現オーナーへ細かな点を質問し、これから引き継ぐ(かもしれない)事業の全体像だけでなく詳細も自分の中へ落とし込んでいきます。また、多くの方は、ここまでの段階で、本当に引き継ぎたいかどうかが見えてきます。実は、引き継ぐかどうかを決めるのは、売買価格ではなく、気持ちや意思にかかっているのです。言い換えると、「引き継ぐ気はないけれど、売買価格が安いならば引き継いでもいい」という意識では、たとえ引き継いでも失敗します。話を戻すと、この段階で引き継ぐことは難しいと判断したら、検討は終了です。
「価格次第で引き継ぎたい」と判断したら、次の段階へ進みます。
※本記事は、月刊『美容の経営プラン』2025年7月号から転載した記事です。
次回は… 美容室経営を受け継ぐ その4|いよいよ譲渡契約を結ぶ!…その前に(3/12公開予定)
はじめから読む… 美容室経営を受け継ぐ|その1 事業承継・M&Aは今後、美容業でも加速する