美容室も年を重ねるごと、味わいを増していく。佇まいには懐かしさを漂わせながら、その中で人と人が、確かに今を営んでいる。

「(撮影に来るのが)もっと若い頃なら良かったのにねぇ……」
カメラを向けられはにかむ顧客は、開店当初から毎週通う近所の奥さま。その言葉に吹き出した美容師は、
「お客さまは93歳、私は79歳」
と誇らしげに胸を張り、慣れた手つきで柔らかな髪を、手早く巻いてお釜にインする。
――『トミー美容室』の主となったとき、鈴木則子代表はまだ二十歳だった。
「両親がここに決めたの。当時亀有は電車の窓にカエルが張りつくぐらい田舎で、最初は実家が恋しくって泣いたわ」
アウェイの地に降り立った新米美容師の店はしかし、確かな技術とモダンな雰囲気で、すぐに行列ができるほど盛況となった。以来、セットにパーマに明け暮れ、晴れの日の支度も無数に手がけた。
「結婚して出産したときも働いたし……子どもは母が育てたようなものね。夫が倒れたときも店は開けたし。一生懸命やっていたら、『え、もう60年!?』って感じ」
その間、辞めたいと思ったことは一度もないという。
「辛かったこと? ないわねぇ。前にお客さまから聞かれたことがあるの。『あんた毎日髪を触って飽きない?』って。『いいえ。手でする仕事だから、同じようにやっても毎回仕上がりが違って飽きません』と答えたのね。『ストレスたまらない?』って聞くから、『仕事してたら忘れちゃうのよ』と言ったら、『器用ネ~』ですって」

一人ひとり目の前の客に打ち込むうち、かつて「ノロコ」と呼ばれた内気な娘は地域にどっかと根付き、いまや「先生」と呼ばれ頼られている。
「『親しき仲にも礼儀あり』でお客さまとは一線を引いてきたけれど、兄弟仲を修復したり、子の縁談を後押ししたり、思えばいろいろしてきたわ。最近は、団体を引っ張ったり人に教えたり、公の仕事がすごく増えたわね」
出張美容や区民結婚式など、時代に先んじた挑戦も数々行なう。
「昔ある人に『店が年取ればお客さまも年取るんだぞ』と言われて、その時は若かったからピンと来なかったんだけど、ある時気付いたの。『本当だ。私もお客さまも、もう若くない。今までいただいた恩を返さなきゃ』って」
それ、いつ頃のことですか?
「うーん、2、3年前かな(笑)。うちは店も人も古いんだけど、私は古いことが良いとは思っていないの。近頃は世の中の流れが速すぎてついていけないのが悔しい。駅まで歩くのにも、人に抜かれると『くそー』と思うのよ」



※本記事は、『HAIRMODE』および『HAIRMODEdigital』2017年10月号にて掲載した記事を転載したものです。
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