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Mar. 25
知識

デザインの中で光る
「不快」の正体

2023年春に開催された「世の中を良くする不快のデザイン展」は、1カ月に2万6000人が来場し大きな話題に。多くの人が好まないはずの「不快」が、なぜそれほど人々の興味を引いたのか。同展の仕掛け人である(株)電通クリエイティブピクチャーズの中沢 俊さんが語るデザインと「不快」の関係性、そして、デザインにおける「違和感」の機能とは――。

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「世の中を良くする不快のデザイン展」

写真提供/(株)電通クリエイティブピクチャーズ

デザインと社会をつなぐコミュニケーション・スペース「GOOD DESIGN Marunouchi」で開催された企画展。パネル展示や体験型コンテンツによって、「不快」を効果的にデザインすることで世の中の役に立っているコト・モノを心理効果からひも解いた。

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2023年3月24日~4月23日
(株)電通クリエーティブX(現・電通クリエイティブピクチャーズ)と(公財)日本デザイン振興会の共同開催

デザインとは課題を解決すること
その過程で働く「不快」に着目

――「世の中を良くする不快のデザイン展」を開催した背景を教えてください。

中沢 日本デザイン振興会がデザイン全般をテーマに毎年企画展の募集をしているので、そちらに応募したのが始まりです。〝デザイン〟という言葉はかなり広義ですが、私はデザインとは課題を解決することだと解釈しています。つまり、課題に対して何らかの表現をしたり、仕組みをつくったりして、その結果としてポジティブな状態へ導くことです。

世の中を見渡すと、課題を解決する途中段階の手法として「心地よさ」が用いられることが多くあります。しかし、あえて「不快」を用いることもあるんです。あまり注目される機会のない「不快」にスポットライトを当てると面白いのではと思いました。

――どのような展示内容だったのでしょうか。

中沢 「不快」を与えることで課題解決している取り組みやプロセス、「不快」を起点に新たな価値を生み出したプロダクトなど、心理効果の視点から「不快」とデザインの関係をパネルで紹介しました。その他、音や視覚で体験できるデジタルコンテンツの展示も行いました。

――「不快」にスポットライトを当てた狙いは?

中沢 展示会を行うまでは、「不快」が役に立つと考える人はほとんどいなかったでしょう。つくり手側も誰かを「不快」にさせたくてデザインする人はいないはずです。課題解決にはポジティブな思考が当然と思われています。しかし実際には、「不快」を効果的に活用して課題解決をしているデザインが世の中には多く存在します。つくり手にも、受け手にも、実は「不快」が役に立つということに気付いてもらいたかったんです。

また昨今の社会的傾向として、「不快」を排除しようとする動きが強まっていると感じていました。多様性を推進する中で、誰かにとって不快なものは全て排除すべきという考え方が広がっています。多くの人が「不快」のない社会が良いと思っているでしょう。しかし、「不快」を上手に取り入れることで築けるポジティブな社会もあると思います。全ての「不快」を排除することが正解ではない――、そうしたメッセージを伝えたいという意図もありました。

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デザインの中で
「不快」が機能している
場面とは

――課題解決の過程で「不快」が生きるのはなぜですか?

中沢 私たち人間は、心地よい「快の刺激」よりも、命の危機に直結する「不快の刺激」をより速く察知するようにできています。視覚や、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に不快を訴えることで直感的に危険を感じ、敏感に反応する人間の心理が上手に利用されている例が多くあります。踏切は、黒と黄色という視覚の不快、耳障りな警報音という聴覚の不快のダブルで危険を知らせていますね。

また、曖昧さが不快に感じることもあるでしょう。しかし、人間には想像力があるので、あえて曖昧にすることで価値を高めることができます。例えば、使う人次第でテーブルとしても椅子としても使える家具は、曖昧だからこそ用途が多様で使いやすくなるケースもあるでしょう。

――「不快」が効果的に働くシーンがたくさんあるのですね。

中沢 他にもあります。簡単に手に入れたものよりも、苦労して手に入れたものに価値を感じた経験はありませんか。表層的には面倒はないほうがいいと思っていても、深層心理まで突き詰めると労力がかかったほうが愛着や満足感が湧き、本来の価値よりも高い評価を下すことがあります。これは「コントラフリーローディング効果」と呼ばれます。組み立て式の家具がその一例です。完成形を購入するよりも手間と労力はかかりますが、自分で組み立てるのは楽しいですし、苦労した分、完成すれば自然と大切に思えてきませんか?

また、SNSにハマってしまうのも、実は「不快」が潜んでいるからと言われています。例えばスクロールするとき。「興味のある情報」と「不要(不快)な広告」がランダムに表示されます。「次こそは面白い情報が出てくるかもしれない」と思わせることで、どこまでもスクロールし続けてしまうのです。

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「違和感」とは
あえて普通と違う状態を
つくること

――ヘアデザインをつくるとき、「違和感」を大切にする美容師さんが多くいます。「不快」と「違和感」に共通点はあるのでしょうか。

中沢 違和感を辞書で調べると、「しっくりこない」「不自然さ」といった意味が出てきてネガティブに感じるでしょう。しかし、決してネガティブなだけではないと思うんです。私は日頃、広告デザインの仕事をしていますが、目に留めてもらうには違和感をつくったほうがよいときもあります。その場合の違和感とは、「他と比べてどうなのか」ということ。あえて普通とは違う状態をうまいさじ加減でつくることで、特徴を際立たせるのです。ただし、違和感はやり過ぎると「不快」になります。

――広告の仕事をする中で違和感をつくるときに心掛けていることはありますか。

中沢 広告は絵だけでなく、言葉で違和感をつくることもできます。ちょっとドキッとするようなキャッチコピーにしてみたり。共感してもらわないといけないので、多くの人はまだ気付いていないけれど、ドキッとすることを思い浮かべながら、「言われてみたらそうだな」と思ってもらえるようなコミュニケーションを目指しています。

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Profile
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㈱電通クリエイティブピクチャーズ

中沢 俊

かざわ・しゅん/1982年生まれ。2004年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年、㈱電通テック入社。現在、㈱電通クリエイティブピクチャーズ所属。企業、商品、イベントなどのコンセプトワークを始め、CI開発やビジュアル開発など「デザイン起点」でさまざまな課題解決に取り組んでいる。

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