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Feb. 18
ヘアデザイナー

世界最高齢
108歳の現役女性理容師
箱石シツイさんを訪ねて

今年3月、世界最高齢の現役女性理容師として、ギネス世界記録に認定された箱石シツイさん。約90年、ハサミ(とかみそり)を握り続ける箱石さんに会いたくて、栃木県那須郡那珂川町の『理容ハコイシ』を訪ねた。

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理容師になって、もうすぐ90年。見習いのころを含めると、94年になるのかな。大変なことも、素晴らしいことも、本当にたくさんの思い出がありますよ。

夫と一緒に東京で始めた理容室が、空襲で焼けてしまってね。私と子どもたちは、ちょうど郷里へ疎開の相談に来ていて無事でしたが、帰るところがなくなってしまって。しばらく実家の世話になりながら暮らしていましたが、父と母を立て続けに亡くして、そのうち夫の戦死が分かってね。子ども2人を抱えて、どうやって生きていけばいいのかと希望をなくしてしまったこともありました。けれど、理容師をやっていて本当に良かったですよ。何とか子どもたちを育て上げることもできたわけですから。

『理容ハコイシ』を始めてからは、東京帰りだから「東下り(あずまくだり)」と話題になったりして、まともにご飯を食べる時間もないほど忙しくさせていただきました。息子に食事の用意をしてもらって、お客さんのひげ剃り前、蒸しタオルで顔を温めている間に台所へ行ってご飯をこっそり半分くらい食べて、すぐに戻る。全部食べていると蒸しタオルが冷めちゃいますし、お客さんにバレちゃいますからね(笑)。農家のお客さんも多いから、田植えや稲刈りの時期になると、田んぼに出る前の朝か夜に「髪の毛やってくれ」と来るでしょう。本当は、理容組合の決まりで営業時間は8時~20時までだったけど、この辺は街から離れてるから。定休日にもカーテンを閉めてお客さんの髪を切ったりしてね。毎日、仕事が終わるとバタンキューでしたよ。

そんなこんなで、毎日一生懸命やっていたら、いつの間にか108歳になっていました。今は、予約をいただいたときだけお店に出て、息子に助けてもらいながら、お客さんの髪を切っています。やっぱり、お客さんに会えるのは楽しみですから。毎日、体操をして体を鍛えるようにはしていますよ。

理容室ハコイシの店内
自宅兼店舗のサロン部分。長男・英政さん夫婦との同居を機に改装し、セット面を2面から1面に。理容椅子をはじめ、年季の入った道具がたくさん。
箱石さんの理容師免許
箱石さんの理容師免許。管轄は、何と警視庁。公衆衛生の観点から、警察が理美容を取り締まっていたことに加え、「昔は、西洋かみそりではなく、小刀で顔を剃っていましたから」と箱石さん。
年代ものの理容ハサミを使う箱石さん
指掛けのない、年代ものの重たいハサミを見事に操る箱石さん。刈り上げには、このハサミが一番なのだそう。もともとは大きなハサミも、研ぎ続けたことでどんどん小さくなってきた。
108歳の箱石シツイさん
御年108歳の箱石シツイさん。若いころに熱中したのは、髪型の研究。「昔は、女の人も後ろを刈り上げたりして短い髪がはやった時期もあったけど、今の髪型はやさしいね」と箱石さん。長さを残して切ると、すぐに伸びてしまうのではないかと心配になってしまうそう。
箱石さんの肖像

箱石さんHistory

1916(大正5年)11月10日栃木県那須郡大内村(現・那珂川町)に生まれる。
1931(昭和6年)14歳で上京し、理容師見習いになる。
1936(昭和11年)理容師免許取得。
1939(昭和14年)同じく理容師の二郎さんと結婚。淀橋区(現・新宿区)下落合に理容室『ヒカリ』を開業。
1940(昭和15年)長女・充子さんが誕生。
1943(昭和18年)長男・英政さんが誕生。
1944(昭和19年)二郎さんが太平洋戦争に出征。
1945(昭和20年)東京大空襲で自宅兼店舗が焼失。終戦。
1953(昭和28年)二郎さんの戦死公報が届く。土地と古民家を購入し、現在地に『理容ハコイシ』を開業。
2021(令和3年)東京オリンピックの聖火ランナーに104歳で参加。
2024(令和6年)アメリカの長寿調査機関・LongeviQuestが、世界最高齢の現役理容師として認定(107歳)。
2025(令和7年)3月5日に、世界最高齢の現役女性理容師としてギネス世界記録に認定(108歳と115日)。

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