プロの美容ぜんぶ。 HAIR MODE online

Mar. 16
経営

美容室経営を受け継ぐ
その4|いよいよ譲渡契約を結ぶ!…その前に

美容室経営者・オーナーになる方法は、 独立創業だけではなく、「事業承継」という道がある。事業拡大も、自力出店だけではなく、「M&A(合併・買収)」が選択肢の一つとなる。どちらも大きな金銭が動くことからトラブルも生じがちだが、きちんと手続きを進めれば、決して難しいものではない。経営基盤や経営資源をそのまま引き継げるというメリットと、前オーナーの思いを受け継ぎ、さらに発展させるという使命は、事業承継やM&Aならではの特徴であり、やりがいも大きい。そこで「美容室経営を受け継ぐ」と題し、事業承継やM&Aを成功に導くためのポイントを特集する。

Index

解説:齋藤和寿[M&A・事業承継の成功法を教える専門家]

いよいよ譲渡契約を結ぶ!
…その前に

事業譲渡・M&Aの基本合意に達した後は、条件の詳細を煮詰めていくことになります。承継まで、あとわずか。気を抜かずに進めていきましょう。

買収監査から
支払いまでの注意点

基本的な条件が合意できたら、

  1. 買収監査
  2. 最終条件の調整
  3. 株式譲渡契約または事業譲渡契約の締結
  4. クロージング(支払い)

で完了となります。以下、その詳細を紹介していきます。

01|買収監査を行う

買収監査とは、「受け取った資料の内容や説明は本当に正しいのか」「将来的なリスクが潜んでいないか」を専門家の目で確認することを言います。大がかりな調査を想像するかもしれませんが、目的はあくまで「安心して引き継げるかどうかの最終確認」です。

法人のM&Aでは、税理士・会計士・弁護士といった専門家集団の力を借りることが一般的ですが、小規模な案件や親族・社内承継ならば、自分自身である程度行うケースもあります。具体的には、表1に挙げた点などをチェックしてきます。重要なのは、間違いを探すことではありません。引き継いだ後に「知らなかった!」とならないように、リスクを把握し、どう対処するかを事前に考えておくことが目的です。

表1|主なチェック項目

財務面過去の売上・利益に不自然な変動がないか?
簿外債務(決算書に載っていない借り入れや未払金)がないか?
資金繰りに無理はないか?
税務面過去の税務申告にミスや税務調査での指摘事項がないか?
消費税や源泉所得税などの未納・滞納がないか?
法務面重要な契約書に不利な条件(解除条件や違約金など)がないか?
労働条件や就業規則が法令に適合しているか?
許認可(美容所登録など)が適切に取得されているか?

なので、買収監査でリスクが見つかったとしても、「ならば中止する」と結論を出すのはもったいないことです。例えば、「賃貸契約があと1年しかない」ことが分かったとしても、1年以内に別物件を探せるならば、対応できるからです。大切なのは、リスクを把握し、それに備えることにあり、買収監査をしっかり行うことで、自信を持って次のステップへ進むことができます。ここが事業承継・M&A成功の分かれ道だといっても過言ではありません。

02|買収監査の結果をもとに最終条件を調整する

買収監査の結果、問題がなければ次のステップ、最終条件の調整に進みます。もし懸念点やリスクが見つかった場合には、当初の条件を見直す必要があります。例えば、「スタッフの一部が、事業承継の後で退職予定である」「話を持ち掛けられた当初よりも売上が下がっている」といった場合には、買収金額の見直しや、再検討のための期間延長といった調整を検討します。この工程では、譲渡側との関係性も重要です。最終調整段階で出現した不安点などを正直に伝えた上で、どうすればお互い納得して前へ進めるかについて、一緒に考える姿勢を持つことが大切です。

03|契約書を交わす

最終的な条件がまとまったら、正式な契約書を交わします。株式譲渡ならば「株式譲渡契約書」、事業譲渡ならば「事業譲渡契約書」を締結することになります。契約書には、

  • いつ
  • 何を
  • いくらで
  • どのように

譲渡するのかを明記します。曖昧な点を残しておくと、後からトラブルになる可能性が高まります。特に注意したいポイントを左表にまとめました。自分一人で判断できない場合には、専門家にも契約書を見てもらいましょう。「契約書の内容が難しく、よく分からない」と思ったときこそ、慎重に進めるべきタイミングです。

契約締結の際に注意すべきポイント

  • 支払い条件(金額・時期など)
  • 引き継ぎの時期と方法
  • 表明保証(※1)や競業避止義務(※2)の有無
  • 前オーナーのサポート期間や範囲

※1 譲渡側(売り手)が譲受側(買い手)に対して、財務や労務、事業内容などの開示情報や説明事項が、契約締結日や譲渡日などの時点で正確であることを表明し、保証すること。
※2 譲渡側が事業を譲渡した後に、一定期間・指定地域において譲受側と競業しないと義務付けること。競業避止義務をつけることで、端的に言えば「美容室を売却した翌日に、前オーナーがその美容室の隣で新店舗を開業し、ライバル関係になった」といったことを防止できる。

04|クロージング(支払い)

契約書を締結したら、いよいよ「クロージング」と呼ばれる最終ステップに入ります。相手方から重要な物品(会社の実印、印鑑カード、通帳など)を受け取ると同時に、相手方への支払いを完了させます。また、支払いの完了と同時に、株式譲渡であれば、代表者変更や株主名簿の変更などを進めます。事業譲渡ならば、保健所への事業承継の届け出や、各種契約関係の名義変更が必要になります。忘れずに行いましょう。

このクロージングをもって、正式にあなたが新オーナーとなります。鍵の引き渡し、従業員へのあいさつ、取引先への連絡などを滞りなく行えるよう、段取りをつけておくことをおすすめします。とはいえ、これで事業承継・M&Aは万事完了!ではありません。次回からは、その後の「統合プロセス」について述べていきます。

クロージングが終わったら…

代表者の変更や事業承継などの届け出、各種契約関係の名義変更などを滞りなく行うこと!

次回は… 美容室経営を受け継ぐ|その5 承継後にこそわながある! 統合までの道のりでの注意点(3/19公開予定)

はじめから読む… 美容室経営を受け継ぐ|その1 事業承継・M&Aは今後、美容業でも加速する

Profile
M&A・事業承継の成功法を教える専門家

齋藤和寿

さいとう・かずとし/就職した銀行でM&Aに出会い、天職と確信。証券会社に転職して上場企業の会社売却などに携わり、M&Aコンサルタントとしての経験を積む中で、「売り手もそのスタッフも安心できるM&Aを提供したい」との思いが高まり、2020年に独立。インバースコンサルティング(株)を設立する。取引累計額は200億円を超える。

Recommend

Ranking