
スタッフを店長や幹部のポストに据えれば、 そのスタッフは店長や幹部となる。だが、店長や幹部として必要な能力がなければ、店舗を取りまとめることも、売上を伸ばすこともできない。必要なのは、単に立場上の店長・幹部ではなく、店舗とスタッフを輝かせ、お客さまにも支持される、「デキる店長・幹部」だ。そこで「デキる店長・幹部」が持つべき能力と、その能力を育成するための方法を紹介する。
photo:AIPERA – stock.adobe.com
「デキる店長・幹部」とは、サロンワークから管理業務まで、全ての仕事をこなす者…ではなく、スタッフへ適切に仕事を任せて成長を促しながら、自分しかできない業務で成果を出せる者である。店長・幹部に必須の「任せ力」を身に付けさせよう!
解説:岡本文宏[「任せる」専門家、繁盛店育成コーチ]
任せることには勇気が要ります。筆者である私自身も、かつてセブンイレブンのFCオーナーとして店を運営していた際、オープンから約1年間はスタッフに仕事を任せることができませんでした。多くの仕事を抱え込み、1日20時間も店に出ずっぱり。180連勤を経験したこともあります。
当時の私のように、店長や幹部になったばかりの「お任せ初心者」は、自分でやった方が早いし、安心できると思い込み、自ら何でもやってしまいがちです。しかし、特に美容室の場合、ほとんどの店長・幹部はプレイングマネジャーです。これまで通りに接客や施術を行いながら、新たに店長・幹部としての業務が増え、かつ、現場スタッフをまとめていかなければなりません。自分一人で仕事を抱えていたら、身動きが取れなくなってしまいます。
また、店長・幹部は、スタッフの育成も大事な仕事。スタッフは、適切に仕事を任されることによって能力が伸び、成功体験を得て自信をつけていきます。つまり店長・幹部は、「自分自身の負担軽減」と「スタッフの育成」という2つの観点から、仕事を人に任せる力が必要なのです。そこで、「お任せ初心者」である店長・幹部を「お任せマスター」にクラスチェンジさせるために、オーナーとしてどう導けばよいかをお伝えします。
店長・幹部には、仕事を任せることの重要性を話した上で、「誰に任せるのかを、慎重に決めることが第一歩だよ」と伝えましょう。なぜなら、自分のやりたいことを任されたらやる気が出て、今まで以上に活躍できるものですが、不向きなことや能力以上のことを任されたら、重圧を感じ、パフォーマンスが落ちかねないからです。ある仕事について、任せる人を決める際は、「性格」「得意・不得意な仕事」「興味を持つ分野」「個人のビジョン(将来の夢)」などの特性を事前に把握して検討することをおすすめします。
私がセブンイレブンのFC店を経営していた際は、約30人のスタッフの特性を「スタッフカルテ」と呼ぶシートに記入していました。スタッフカルテをもとに、適切な仕事を任せることができれば、仕事自体もスムーズに進みます。特に「個人のビジョン」は、任された仕事が自分の将来の夢につながると分かれば、積極的に業務へ取り組むようになります。
「スタッフカルテ」に記入する項目例
スタッフの氏名、生年月日、出身地、家族構成、趣味(プライベートでの取り組み)、好きな食べ物、性格、得意な仕事、不得意な仕事、一番喜ぶ褒め言葉、価値観(大切にしていること)、ビジョン(将来の夢)…など
▽
「お客さまのどんな情報が分かれば、より良いサービス・デザインを提供できるのか」を考えて顧客カルテの項目を検討するのと同様、「スタッフに関 するどんな情報が分かれば、コミュニケーションがスムーズになり、仕事を任せやすくなるのか」を店長・幹部が各自で考え、独自のカルテを作成できればベター。
新たな仕事を任せる際、スタッフの多くは「面倒」「嫌だ」「他にもスタッフがいるのに何で私?」と思います。店長・幹部も、部下の立場だったときは同じ思いを持ったことでしょう。そのため、「仕事を任せて嫌われたくない」と思ってしまいがちです。
人は変化を嫌います。新しいことを任されてうれしいと思う人は、そもそも少数派。これを踏まえて任せることが肝要なのです。スタッフが、任されたことに積極的に取り組むよう導くには、「任せたこの仕事を通じ、あなたにこんなメリットがある」と伝えることも欠かせません。自分に有益と分かれば行動が変わります。キーワードは「成長」。任された業務がうまくできれば、スタッフは自信がつき、達成感と成長を実感できます。人は成長したいと願っている(成長欲求)ので、それが満たされる職場からは離れません。つまり、適切に任せることができれば定着率が上がり、店長・幹部の評価も上がるのです。このことを理解させましょう。
なお、任せたことがうまくいかないときなど、店長・幹部が自らのマネジメント能力不足に意気消沈する場合があります。しかし、本当の原因は任せる側の能力不足ではなく、「教育不足」です。任せる前にやり方をマスターさせれば、ほとんどの業務は無理なく完了させられます。
任せる際の伝え方に問題がある場合も少なくありません。例えば、「ヘアカラー剤をいつもより多めに発注しておいて」といったアバウトな任せ方は、「いつもより多めならどれだけ多くてもいい」ケースを除いてNG。本当は5~6個多く発注してほしいのに、仕事を任されたスタッフが「多め」をプラス1個程度と考えたならば、届いた荷物を見て肩を落とすことになります。そんな思いを店長や幹部がしなくて済むように、ぜひ上の「あいまい語」の表などを見せながら、「任せるときにはあいまいな指示をせず、やってほしいことを、数字も織り込みながら明確に伝えるんだよ」と指導してください。
| あいまいな言葉 | 対応方法 |
|---|---|
| 多く・少なく(個数・量) | 多く(少なく)する目安を伝える |
| 大きく・小さく(長さ・サイズ) | どれくらい大きく(小さく)するかを明記する |
| 早く、遅く(速度・時間) | 速度や時間を指定する |
| 増やす、減らす(個数・量) | 増やす(減らす)容量、個数を記載する |
| 高い・低い(温度) | 目安の温度を指定する |
| ○○の感じで | 「○○の感じ」に近い写真や図を見せる |
最後に、「お任せマスター」に一番大切なことをお伝えします。それは、「誰から任せられるか?」です。リスペクトしている店長や幹部から仕事を任せられたなら、気持ちが入りますし、取り組み方も違います。店長・幹部となるスタッフには、
※本記事は、月刊『美容の経営プラン』2025年7月号から転載した記事です。
続きを読む…

(3/23公開予定)
「デキる店長・幹部」を育成する その2|デキる店長・幹部の「伝え方・聞き方」