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Apr. 16
経営

時給1500円時代の美容室経営
その3|時給1500円時代、美容業はどのような影響を受けるのか?

政府は、最低賃金(時給)の全国平均を、 2029年に1,500円へ引き上げることを目標としている。この目標が達成に至るかは不透明だが、物価高騰の社会情勢下にあって、 強い賃上げ圧力がかかっている現実は否めず、美容室経営にも今後、大きな影響を及ぼすことになる。そこで、時給1500円時代の美容室経営と、美容業の今後の在り方について特集する。

Index

時給1500円時代、美容業はどのような影響を受けるのか?

最低賃金の大幅な引き上げが、美容業にもたらす影響とは? 対スタッフ、対お客さま、対経営の3つの視点から検討する。

解説:美容の経営プラン編集部

早急な経営判断に
迫られている

対スタッフでは、言うまでもなく人件費の増大である。特に大きな影響を受けるのは、アシスタントだ。「アシスタントは(直接の)生産性が低い」という観点から、給与を最低賃金程度に抑えている美容室も多いが、現状(2024年度)の平均最低賃金である1055円が、1500円に引き上げられると、給与は約42%上昇することになる。すると、経営体力のない美容室は、新卒生の採用を見送らざるを得なくなり、新卒生を採用できる美容室との差は開くばかりとなるであろう。

また、アシスタントの給与を「将来への投資」として悠長に構えていられなくなることも想定できる。早期デビューのトレンドが加速する一方、未熟なうちにデビューさせられ、集客も施術もうまくいかず、自信を失って離職、というケースが増えるかもしれない。

その他には、最低保障給を引き上げたり、最低賃金をクリアしているスタッフにも給与を増額したり、といった手当てが必要であり、影響はほぼ全員に及ぶと見ていいだろう。

対スタッフの影響:人件費の増大

  1. 給与への影響
    特に、新卒生やアシスタントなどは、最低賃金程度で勤務しているケースが多く、新卒採用を行っている美容室への影響が大。一方、完全歩合制や固定+歩合制のスタイリストも、賃金の最低保障給が引き上がるため、給与の改定が必要か?
  2. 採用への影響
    新卒生・アシスタントに最低賃金を支払える体力がない美容室は、新卒採用を断念せざるを得なくなる。一方、経営体力に余力のある美容室は、高待遇の提示による新卒生の積極採用に乗り出し、二極化するか?
  3. 教育(デビュー)への影響
    生産性の低いアシスタント時代を短縮するため、早期デビューの流れが加速する。一方、デビューを急ぐあまりに基礎がおろそかとなり、「切れない」「売れない」若手美容師が増える恐れも?
  4. 十分な売上を上げているスタイリストへの影響
    十分な売上を上げているスタッフの場合、当面は対応しなくても、最低賃金を割ることはない。一方、物価は上昇しており、賃金が変わらなければ実質所得が大きく減少するため、やはり給与を見直す必要があるか?
  5. 労働時間への影響
    人件費を抑えるため、人材採用を控え、残業を削減する代わりに、省力化・効率化を目的とした設備投資が進む(ヒトからモノへ)。一方、設備投資を行う余力がない美容室は、既存スタッフへの負担が増大し、疲弊・離職が加速する懸念も?

対お客さまで言うと、朗報としては、お客さまの賃金が上昇し、購買力アップが期待できること。ただし、最低賃金引き上げの恩恵を最も受けるパート勤務者は、パートナーの扶養控除内で働いている人も多く、購買力が劇的に上がるかは、政府の税制改革次第だ。

そして対経営。何もしないでいれば、人件費の上昇分が経営を圧迫するのは間違いのないところ。値上げを実施するのか、あるいは高付加価値メニュー・サービスを展開して、顧客満足度と客単価を上げていくのか、経営判断が迫られている。

対お客さまの影響:購買力向上への期待

  1. お客さま全体への影響
    最低賃金の引き上げによって、お客さまの賃金も上昇し、購買力が高まる。
    一方、人件費の上昇分を単純に価格へ転嫁(値上げ)した場合は、実質的な購買力はさほど変わらず、値上げに忌避感を持たれるケースも?
  2. パート勤務などのお客さまへの影響
    子育て中の家族は、顧客のボリュームゾーンだが、パートナーの片方が子育てを主に担いながら、最低賃金程度でパート勤務をしているケースが多く、最低賃金の引き上げは、購買力の大幅な上昇につながる可能性がある。一方、そうした方の収入はパートナーの扶養の範囲内で収めていることが多く、年間の収入は変わらないか?(政府の扶養控除などの見直し次第)

対経営の影響:値上げと高付加価値化

  1. 値付け(値上げ)への影響
    人件費などの増加分を価格に転嫁することで、美容業に値上げのトレンドが生じる。一方、競合他店などとの兼ね合いから値上げに踏み切れない場合は、収益が大きく悪化する懸念も?
  2. 付加価値化への影響
    労働集約型のビジネスモデルから脱却するため、付加価値の高い商品やサービスの導入・販売が加速し、お客さまの満足度が上がる。一方、お客さまの金銭的負担が増大し、「美容疲れ・美容離れ」を引き起こす恐れも?
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次回は…(4/23公開予定)
時給1500円時代の美容室経営
その4|賃上げ&生産性向上につなげる賢い助成金活用

はじめから読む… その1|時給1500円時代へ向かう社会的背景を受けるのか?

Profile
社会保険労務士

落合重正

おちあい・しげまさ/大学卒業後、美容室専売化粧品メーカーに入社し、営業職として勤務。代理店販売の他、新規事業として美容室への直売部門も担当。2006年、社会保険労務士の資格を取得。社会保険労務士事務所勤務や、東証2部上場企業の人事労務担当・取締役を務めた後、'20年、落合社会保険労務士事務所を開設。得意分野は労務管理と就業規則作成。

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