
政府は、最低賃金(時給)の全国平均を、 2029年に1,500円へ引き上げることを目標としている。この目標が達成に至るかは不透明だが、物価高騰の社会情勢下にあって、 強い賃上げ圧力がかかっている現実は否めず、美容室経営にも今後、大きな影響を及ぼすことになる。そこで、時給1500円時代の美容室経営と、美容業の今後の在り方について特集する。
政府が掲げる賃上げ政策の目玉とも言えるのが、最低賃金の引き上げだ。時給1500円が訪れた場合の給与について取りまとめた。
解説:落合重正[落合社会保険労務士]
読者であるオーナーの皆さまは、本特集のテーマであり、政府が掲げる「時給1500円」の目標をご存じのことと思います。この目標は、間違いなく今後の美容室経営に大きな影響を与えることになります。
皆さまもご周知の通り、政府は、2020年代に全国平均の最低賃金を1500円に引き上げる方針を打ち出しています。そのため、最低賃金は急速に上昇しています(下図参照)。去る8月4日、2025年度の最低賃金の目安(全国平均)が示されましたが、その額は1118円と、昨年度(1055円)からプラス63円・前年比106%と、大きくアップしています。
しかし、2020年代中に1500円を達成するには、残り4年でまだ382円足りません。1年当たりでは平均95・5円の最低賃金アップが必要となります。つまり、最低賃金に近い時給で雇用しているスタッフの場合、2026年以降、毎年、95円以上の賃上げが求められる可能性があるのです。

最低賃金は、アルバイトなど時給制のスタッフだけでなく、月給制の正社員も、時間単価に換算して適用されます。例えば1日8時間、月平均23日勤務のスタッフの最低月給は、2025年度全国平均の1155円で計算すると、21万2520円となります(左表参照)。これより給与が低い場合は、最低賃金額との差額をスタッフに支払わなくてはなりません。また、労働基準監督署から指導や是正勧告などが行われ、従わない場合、最終的に50万円以下の罰金が科せられることがあります。
では、時給が1500円になると、いくら以上の給与支払いが必要なのか。これを計算すると、27万6000円になります。まだ技術が乏しく、お客さまに対応できないアシスタントであっても、この金額を支払う必要があるのです。
余談ながら、地域別最低賃金が最も高いのは東京都で、例年、全国平均を100円程度上回っています。このまま推移すると、時給1500円の時代に東京都で雇用するスタッフの最低賃金は時給1600円になると予想されます。計算すると、29万4400で、ほぼ30万円を支払うことが求められます。
最低賃金の上昇に伴うスタッフの給与アップは、スタッフのモチベーションの向上や離職率低下といった効果も期待ができます。人手不足が深刻な美容業界においては、今後もスタッフの待遇を改善する必要があることでしょう。
一方で、人件費は美容室経営において最も大きな固定費であり、大幅な賃上げは大きな負担となります。客単価の引き上げやリピート率の向上だけでは限界のある中で、美容室経営はかつてない困難な局面に立たされていると言えるのではないでしょうか。
そのような今、注目していただきたいのが、政府が賃上げを後押しするために用意している、さまざまな助成金や支援策です。これらを賢く活用することで、賃上げの負担を軽減しつつ、職場環境も改善することができるでしょう。つまり、時給1500円時代を経営のピンチではなく、チャンスに変えることも可能です。そして、時給1500円時代を乗り切るために活用できる公的支援と具体的な対応について、「その4|賃上げ&生産性向上につなげる賢い助成金活用」で詳しく紹介していきます。

次回は…(4/16公開予定)
時給1500円時代の美容室経営
その3|時給1500円時代、美容業はどのような影響を受けるのか?
はじめから読む… その1|時給1500円時代へ向かう社会的背景を受けるのか?
※本記事は、月刊『美容の経営プラン』2025年10月号から転載した記事です。