
国内にとどまらず、世界的にニーズが高まっているヘッドスパ。山﨑逹也さんは「ヘッドスパアーティスト」として、ヘッドスパを単なる施術ではなく、日本特有の文化であると位置付け、「ZUDO(頭道)」を提唱。自身の技術と哲学の継承に注力する。そんな山﨑さんが思い描く、ヘッドスパの未来図とは――。
Interview with Tatsuya Yamasaki

僕が兵庫県芦屋市に『BOLANGE』をオープンしたのは12年前でしたが、当時はヘッドスパを専門とするサロンはほとんどありませんでした。それがコロナ禍前後ぐらいから全国的に専門店が増えていった印象です。

トータルウェルネスの視点から言えば、頭皮や毛髪を深く知る美容師が施術するヘッドスパは、“たかが”ではなく“されど”ヘッドスパ。美容はもとより、健康にもアプローチすることができます。頭痛や肩こりといった慢性的な悩みを予防したり、解消したりできますし、シャンプーによる気持ち良さや特別感もあるでしょう。

お客さまがヘッドスパを求める動機は、ここ十数年で変化しています。『BOLANGE』がある芦屋市は富裕層が多く、1〜2カ月のスパンで来店するお客さまが多かったものの、「ヘッドスパ=ご褒美」であり、特別なものと捉える方がほとんどだったように思います。それが今では、「健康や美容のためのメンテナンス」として受ける方が増えています。ライフスタイルの一部として浸透し始めている実感がありますね。

きちんとケアをしていると、髪にボリュームとハリ・コシが生まれ、ヘアカラーの色持ちやデザインの持続力も向上します。ヘッドスパは、お客さまが希望するヘアスタイルやライフスタイルをかなえる土壌を育てるものであり、またその結果、お客さまと強固な信頼関係を築くことができるメニュー。3年後、5年後に「あのサロンに通っていてよかったな」と思ってもらえる施術こそが、ヘッドスパなんです。

人気のある美容師はアシスタント時代、シャンプーが上手だったはず。「このお客さまにはオーガニックのシャンプーの方が好まれそう」とか、「力加減はこのぐらいが気持ちいいだろう」とか、普段の会話や人となりから察して提案する力に長けているからです。サロンワークの主役はお客さまです。そして、その人の立場になって考える力を養い、発揮できるのが、直接お客さまの頭皮に触れるシャンプーやヘッドスパ。美容師に欠かせない能力を磨ける技術でもあるのです。

ヘッドスパはシャンプーの延長線上にありますが、追加で料金と時間をいただいて行うもの。技術がイマイチだったら、マイナスの口コミや失客につながってしまいます。単価を上げるためのアプローチとしてではなく、技術を磨き、空間を整えるなど準備をした上で、責任を持って施術しなければいけません。

カットやヘアカラーも、ヘッドスパも「お客さまをきれいにする」というゴールは一緒です。また、カットやカラーリングできれいになるとお客さまはその日を機嫌良く過ごせるように、ヘッドスパで日々のストレスや疲れから解放されると、いつもより人に優しくできたりしますよね。僕は、そうしてヘッドスパで幸せの波紋を広げていきたい。だからやっぱり、“たかがヘッドスパ”ではなく、“されどヘッドスパ”なんです。


2022年には、山﨑さんのヘッドスパ哲学とテクニックをまとめた『NEWスタンダード・ヘッドスパ』を小社より発刊し、ベストセラーに(左)。現在は英語版も登場し(右)、全世界での注目度の高さがうかがえる。

欧米や南米、そしてアジアで、ヘッドスパのニーズは増えています。講習の依頼も多く、アメリカ、カナダ、香港、イギリスなどで行ってきました。昨年11月にカナダで開催された「ヘッドスパサミット」には、2日間で200人以上が集まるほどの注目度の高さです。また先日、クロアチアから「本物のヘッドスパを受けたい」とサロンを訪れてくれた美容師さんがいました。海外ではヘッドスパの正解を分かっていない、もしくは知らない技術者がとても多いんです。例えば、かつて海外ではカリフォルニアロールが真の和食だと思われていたように。まずは「ヘッドスパ」という言葉が生まれた日本で、オーセンティックなヘッドスパを体験してもらいたいですね。

SNSでは「ジャパニーズヘッドスパ」というキーワードが出てきますが、明確な定義はありません。そこに何らかの定義づけをするとしたら、手技で頭をマッサージしてハッピーになってもらうのがオーセンティックなヘッドスパであり、僕が提唱する「ZUDO(頭道)」だと伝えたい。例えば同じ人の頭であっても、天候や過ごし方で365日同じ状態が続くことはありませんし、施術の最中にもコンディションは変化するため、施術の最初と最後で圧のかけ方は変わります。手で頭に触れて、指先から得た感覚を自分の脳に伝達し、五感のうち、「味覚」を除いた4つの感覚をフル稼働させて、また指先で表現する。だから、僕は「ヘッドスパアーティスト」を名乗っているんです。

僕の師匠はお客さま。というのも、たくさんのお客さまを施術するうちに統計的なデータが蓄積し、それに基づいて臨機応変に対応することができるようになっていくからです。ヘアカラーやストレートパーマは、失敗するリスクがあるから研究しますよね。けれどもヘッドスパは結果が見えにくいから研究する人が少ない。だから、成長しないんです。施術後、もみ返しが来ていないか、よく眠れているか、力加減はどうだったかなど、お客さまにヒアリングして次の施術に生かす努力は必須でしょう。さらに応用ができてこそ、プロフェッショナルです。

とにかく、諦めないでください! 他の技術と同様に、急にヘッドスパが上手になることはありません。施術を積み重ね、一段一段地道にステップアップしていきましょう。そのために、常に考え、感じ取る訓練をする。カットも、「次はどう切ろうかな」なんて考えず、指が自然と動くじゃないですか。それと同じだけトレーニングを積めば、頭に触った瞬間に、経験から、学びから、どう指で表現すればよいのかが分かるようになります。
※本記事は、月刊『HAIR MODE』2026年5月号から転載した記事です。