
「盛り」「派手」「ハレの日」と言われたら、 多くの人がこの光景を思い浮かべるのではないだろうか。そう、福岡県北九州市のド派手成人式だ。メディアでもよく取り上げられるこの文化には、どんなルーツがあり、どこへ向かおうとしているのか。カルチャーの中心にいる貸衣装店『みやび』への取材から解明していく。


取材協力:みやび((有)アートイン写観)



1990年、福岡県北九州市創業。代表取締役船津 敦氏。福岡県北九州市の貸衣装店『みやび』本店を初め、東京都、千葉県、大阪府で複数店舗を運営。現在、本店の店長を池田 雅氏が務める。成人式や卒業式などの冠婚葬祭に関わる衣装の他、企業関連イベントやミス・ミスターコンテストでの衣装スタイリング、米・ニューヨークを初めとする海外でのファッションショー、格闘技の入場着やユニフォームの作製、メディア露出など、活動は多岐にわたる。
知っているようで以外と知らない、北九州市成人式の歴史と実態。大まかなトレンドを踏まえつつ、チェックしておきたいポイントを4つに絞ってみた。いったい、何がどうなってあのカルチャーが形成されたのだろうか。

北九州市の常識
「成人の日=楽しむ日」
北九州市は2016年まで、「スペースワールド(かつて同市内に存在したテーマパーク)」で成人式を行っていた。そのため、同市の若者にとって成人式は「楽しむ日」。全体的にその1日にかける情熱が強い上、特に女性は「派手め」な振袖を好む傾向があった。
始まりはメンズ2人組
2000年代初頭、ある男性2人組が『みやび』の振袖内覧会に訪れ、「ペアで金・銀の羽織袴を着たい」と希望。同店にとって前代未聞の注文だったが、あらゆる手を尽くして希望通りの衣装を用意。それが話題を呼び、翌年から口コミなどで「派手衣装」を求める人が少しずつ増え始めた。

グループでの装いが人気
そもそもが前述の通称「金さん銀さん」からスタートしたこのムーブメント。友人同士の横のつながりを大切にする土壌もあってか、複数人で同じコンセプトの衣装を着用する例が多い。大人数で着物もヘアスタイルもそろえて迫力を出す姿が、深夜番組などに取り上げられて大きな話題となった。



多様性のインフレを
引き起こす土壌
同市では先輩・後輩の縦のつながりも強く、先輩の成人を祝いに来た後輩が感化され、「来年は絶対に超えたい」と闘志を燃やすこともしばしば。そのため、派手さは年々強くなる一方。「虎をのせたい」「龍をまといたい」「炎を背負いたい」など、造形物の要望も増えている。




最初に申し上げておきたいのは、派手な衣装を身にまとう彼らはとても「真面目」かつ「熱量が高い」人たちであること。彼らは1年以上前から頻繁に打ち合わせに訪れ、希望する衣装を実現するために、情熱を持ってプレゼンしてくれます。貸衣装とオーダーメイドの割合によって料金は変化しますが、高いときは50万円以上になることも。でも彼らは妥協しない。
その要望に応えるべく、私たちもあの手この手で何とか希望の衣装に近づけようと努力しています。私たちとしては、今も昔も「レンタル衣装屋さん」であることは変わりません。決して多くはないスタッフたちで協力し、店の一部を倉庫代わりに大量の衣装を管理。動物の頭や翼などの造形物の要望があれば、特撮関連の業者さんに協力を仰いだり、自分たちでできるものは夜な夜な手づくりをしたり……と、頭と体を動かし続けています。
面白いのは、普通のファッショントレンドであれば派手と地味が交互にきてもおかしくないところ、北九州の成人式ではずっと右肩上がりで派手になり続けていること。みんな、年上の先輩たちが装う姿を見ているので、憧れが育ちやすいんですよね。そんな中でも最近はオーダーに多様性が出てきて、派手だけど黒ベースであったり、女性の振袖をメンズが着たり、振り幅がより増してきた印象。詳細は明かせませんが、2026年は「かっこいい系」が主流になりそうです。
彼らの発想は奇抜に見えるかもしれませんが、多くのお客さまが「どんなに派手でもあくまで着物の範疇からは離れたくない」と話すのは興味深いですね。固定観念にとらわれない、こういう形の「伝統」があってもいいのではないでしょうか。
※本記事は、月刊『HAIR MODE』2026年1月号から転載した記事です。